花火を見に行った時のこと

先月花火を見に行った。
かなり有名なところらしく、会場は多くの人で賑わっていた。
祭りに行ったりするとよく思うのだが、こんなにたくさんの人はどこからきているのだろう。どこからともなく人が湧き出てきたようにも感じる。僕もその一人だった。
 
辺りは暗くなり、交通規制された道路に人が並ぶ。河川敷の土手を隔てて、川側は有料の特等席となっていた。僕は道路側を歩き花火を見る場所を探した。レジャーシートを敷き寝転がっている人もいる。僕は何も持ってきていなかったが、ガードレールを背にそのままアスファルトの上に座った。汗をとめどなく流させていた強い日差しの残滓もかなり薄れ、心地よく風が吹いていた。
土手の向こう側がぼんやりと光っており、誰かの挨拶がスピーカーを通して聞こえる。ここからでは見えなかったが、有料席には特設ステージがあるのだろう。
 
しばらくしてオープニングのカウントダウンが始まった。ここまでじれったくさせるからにはさぞ素晴らしい花火なのだろうと期待しながらカウントゼロを待った。
 
圧巻だった。
 
想像を超えた大きさで目の前に閃光が飛び散り、直角かと思うほどに首を上へそらした。直後に心臓を揺らす破裂音。一瞬で耳と視界を占領され、僕の口はあんぐり開けるしかなかった。
一目では見渡せないほどの光の束が色を変え動きを変えマスゲームのように隊列を組み、手品のように消えてはまた光り、次々とプログラムをこなしていった。
真っ黒なキャンバスにペンキが塗られ、赤だ青だと考える前に洗い流されまた塗られを繰り返し、気付けば演目は終わっていた。
 
こんなに心を奪われる瞬間は久々だった。好きな音楽や絵に出会った時とか、物語のラストに向かっていく高揚感やその後のカタルシスとか、その対象物のみに集中する瞬間がある。その時の心躍る感覚がとても好きだ。モノクロ写真に色がついていく感じというか、たくさんのつぼみが一斉に開花する感じというか。普段死んでいるような生活なので余計その反動が大きいのかもしれない。
写真や動画も撮ってみたけれど、誰かに見せてもなかなか伝わらないだろう。同じ写真を見たとしても僕にはその時の記憶も一緒に見ていることになるから。
VRを使えばかなり実物に近い体験ができるのかしら。